福岡県と長崎県という観光有名県にはさまれた佐賀県。その佐賀県では、2012年から2017年における外国人の延べ宿泊者数は、約4万人泊から約38万人泊と、約9倍に急増した。その理由は、タイをターゲットとした「ロケツーリズム」に積極的に取り組んだことによるものです。
もともと佐賀県で映画などのロケ誘致・支援を行う佐賀フィルムコミッションでは、海外作品の実績がありましたが、2013年頃には国内の誘致競争が激化。それまでの中国や韓国を中心とした誘致が難しくなり、新たなターゲットとしてタイを設定しました。その大きな鍵となったのは、2013年にタイ人の訪日観光ビザの発給条件が緩和されたこと、バンコクから隣県の福岡空港への直行便が就航していたことです。
タイの映画やテレビ業界についてのリサーチを重ね、コネクション作りやセールスに尽力した結果、大御所監督が手がける映画のロケ地として誘致に成功しました。その映画である「タイムライン」は2014年2月にタイ全土で公開され初登場2位、同年のタイ映画年間興行収入5位の大ヒットを記録。これによりタイ人の間で佐賀の知名度が急上昇します。
映画公開後の観光PRを見すえ、映画の主演女優が表紙の佐賀観光PR冊子を作成していたことや、映画公開時のイベントによるPR効果もあり、実際にロケ地巡りを目的に佐賀を訪れるタイ人が徐々に増えていきました。
その後も佐賀県では佐賀フィルムコミッションが引き続きタイへの営業を継続。テレビドラマ「きもの秘伝」、LINE TVドラマ「STAY saga~私が恋した佐賀~」などの誘致にも成功し、さらなる佐賀の知名度アップに貢献しました。
さらにPR冊子の定期的な刷新や、現地の旅行イベントで、ロケ地だけでなく食、温泉など県内のほかの観光資源も紹介することで、新規客のみならずリピーター客の獲得を図ってきました。
2017年からはフィリピンにおいて、映画・ドラマの県内へのロケ誘致および制作作品のプロモーションに積極的に取り組んでいます。
佐賀県現地での外国人旅行者受け入れ体制については、環境が十分に整備されています。フリーWi-Fiやフリー充電スポットを整備する際に一部補助金を出したことで、県内の宿泊施設や商業施設のほとんどでフリーWi-Fiが利用できるようになっています。
また充実しているのが佐賀県観光連盟が開設している多言語コールセンター。24時間365日体制で17ヵ国語対応に対応しています。同じく観光連盟が配信している無料観光アプリ「どがんしたと(DOGAN SHI・TA・TO)」もあり、こちらは5か国語対応で、グーグルマップと連動して観光や宿泊、グルメ情報などを確認できます。
ロケツーリズムは一過性のブームになりやすいという傾向はあるものの、こうした佐賀県の継続した地道な取り組みは、インバウンドビジネスの成功例の1つといえます。訪日富裕層インバウンド旅行客の増加を狙っていく上でも大きなヒントを提供してくれている。